味醂四合
六歳のみぎり、初めて酒を口にした、それというのも実は親孝行の所産である。「たわけもの、年端もいかぬわらべが酒飲んでなにが親孝行?」と憤られる読者には、ありのまま思い出綴るしかあるまい。その折り、口にしたのは、味醂四合、母にいわれてハイハイと、家から二丁あまりの酒屋まで、空ビンを持って買いに出かけた際の出来事なのが、もとはといえば親孝行の所業のせい、と断ったゆえん。酒屋の親父も「ボン、お使いか、親孝行やな」と感心してくれた。
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ここまではいいが、酒屋の注いでくれたものをみれば、なにやらトロリとして、通常の水ともサイダーともちがっている。もともと好奇心人一倍に旺盛で、いたずらな子であった。中身の正体をたしかめてくれようと、ビンの口をちょいと押し開けてみれと、プンと香る芳醇な香り、たまらずぐびっとあおってみると、これがうまい。もう一口、ついでにあともう一口…。(「酒・千夜一夜」 稲垣真美) 結局全部飲んでしまったそうで、それを見た母親は、目頭をぬぐって「血は争えぬ」と奥へ入ってしまったそうです